にけニッキ

ねこの14日間

定食屋と猫

私がよく行く飲み屋の向かいに、老夫婦が切り盛りする定食屋があった。

定食屋の入り口には、小さなお客がよくくつろいでいた。
白と黒のぶち猫である。
このぶち猫は、多くの人に可愛がられていた。

定食屋のおばあちゃんや、風俗店のキャッチのお姉さん、通りすがる人…みんなぶち猫を撫でていった。


定食屋の横にあるコンビニで、餌をもらったり、冬の寒い日には、定食屋の排気口の前で丸くなるのが印象的だった。

居酒屋に入る前に、ぶち猫の背中をひと撫でするのが私の日課だった。
おばあちゃんはいつも、「こんなに可愛がられて、この子は幸せだねえ。」
と、目を細め嬉しそうにしていた。

ぶち猫は常に定食屋の前に座っているので、定食屋の猫でありおばあちゃんの猫みたいなものだった。祖母と孫のような関係だったんだろう。

猫を見ながら、酒を飲み、帰りがけにもう一度ひと撫でして別れた。そんな生活を続けていた。猫はいつの間にか、定食屋に来なくなった。


死んでしまったのか、どこか別の場所にいるのか、分からない。
そうこうしているうちに、定食屋も閉店してしまった。


シャッターの降りた入り口を見るたび、猫とおばあちゃんを思い出す。
一度だけあの定食屋で食べた、甘い卵焼きと懐かしい味のマカロニサラダ。
年季の入ったレジを打つおばあちゃんの手と、排気口で丸くなる猫の背中を
私はいつも思い出す。